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日本勲章(にほんのくんしょう)について解説する。

概要

日本において勲章は、天皇の名で授与される。日本国憲法第7条7号は、天皇の国事行為の一つとして「栄典を授与すること」を定め、同条を根拠に「栄典」の一つとして天皇が勲章を授与する。勲章制度を定める法律はなく、政令太政官布告勅令)および内閣府令太政官達閣令)に基づいて運用されている。勲章の種類は、勲章制定ノ件(明治8年太政官布告第54号)、宝冠章及大勲位菊花章頸飾ニ関スル件明治21年勅令第1号)、文化勲章令(昭和12年勅令第9号)などに定められ、現在22種類ある。また、憲法第14条3項は「栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。」と定める。このため、勲章の授与に併せて金品や年金を支給することはなく[1]、勲章を世襲することもない[2]

現行22種の勲章は、菊花章桐花章旭日章瑞宝章宝冠章および文化勲章に大別される。菊花章(大勲位菊花章)と桐花章(桐花大綬章)は、「旭日大綬章又は瑞宝大綬章を授与されるべき功労より優れた功労のある者」に対して、特に授与することができるものとされる。旭日章、瑞宝章は「国家又は公共に対し功労のある者」に授与され、旭日章は「社会の様々な分野における功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた者」に、瑞宝章は「国及び地方公共団体の公務又は…公共的な業務に長年にわたり従事して功労を積み重ね、成績を挙げた者」に授与する。宝冠章は「特別ノ場合婦人ノ勲労アル者」に授与すると定められている。宝冠章は現在、外国人に対する儀礼叙勲や皇族女子に対する叙勲など、特別な場合に限り運用されている。文化勲章は「文化ノ発達ニ関シ勲績卓絶ナル者」に授与される。

叙勲は、春秋叙勲、危険業務従事者叙勲、高齢者叙勲、死亡叙勲、外国人叙勲の区分がある。春秋叙勲は、春は4月29日、秋は11月3日に発令され、毎回おおむね4,000名が受章する。危険業務従事者叙勲は、自衛官警察官消防官海上保安官などの危険業務に従事した者を対象として、春秋叙勲と同じ日に発令され、毎回おおむね3,600名が受章する。高齢者叙勲は、春秋叙勲で受章していない功労者を対象として、毎月1日に発令され、年齢88歳に達したのを機に叙勲される。死亡叙勲は、叙勲対象となるべき者が死亡した際、随時叙勲される。外国人叙勲は、国賓等に対する儀礼的な叙勲と、功労のあった外国人に対する叙勲がある。なお、文化勲章は1年に1回発令され、11月3日の文化の日に、宮中において天皇から親授(直接授与)される。

叙勲は、「勲章の授与基準」(平成15年5月20日閣議決定)に基づいて行われる。衆参両院議長最高裁長官各省大臣などから内閣総理大臣に叙勲候補者を推薦し、内閣総理大臣は審査を行った上で、閣議の決定を求める。この他、叙勲候補者の一般推薦制度もある。受勲候補者には、年齢70歳以上であることなどの形式的要件のほか、「国家又は公共に対する功労」の内容や賞罰歴などの調査が行なわれる。この調査は徹底しており、道路交通法の違反前歴さえも資格取り消しの対象となる。

受章した後に「死刑、懲役又ハ無期若ハ三年以上ノ禁錮」に処せられるなど、勲章褫奪令(明治41年勅令第291号)に定められた事由が生じたときには、勲章を褫奪(ちだつ。剥奪)される。同令では、法令により拘禁されている間は勲章を佩用(はいよう。着用)できないことなども定める。また、本人またはその親族が受けた勲章は、財産としての差押が禁じられている(民事執行法131条10号、国税徴収法75条1項9号)。勲章と同一又は類似の商標は商標登録することができない(商標法4条1項1号)。資格がないにもかかわらず勲章若しくは勲章に似せて作った物を用いた者は、拘留又は科料に処される(軽犯罪法1条15号)。

歴史

[[画像:Sacred Treasures1.jpg|thumb|180px|勲二等瑞宝章(平成14年栄典関係政令改正前)]] [[画像:Sacred Treasures3.jpg|thumb|180px|勲三等瑞宝章(平成14年栄典関係政令改正前)]] 日本において、西欧に倣った勲章制度が定められたのは、明治時代である。明治4年9月2日1871年10月15日)、新政府は賞牌(勲章)制度の審議を、立法機関である左院に諮問した。1873年(明治6年)3月には、細川潤次郎大給恒ら5名を「メダイユ[3]取調御用」掛に任じ、勲章に関する資料収集と調査研究に当たらせた。1875年(明治8年)4月10日、賞牌従軍牌制定ノ件(明治8年太政官布告第54号)[4]を公布し、勲等賞牌の制度が定められた。布告では、勲一等から勲八等までの勲等を叙した者に、それぞれ一等賞牌から八等賞牌までの賞牌を下賜するとした。このとき定められた賞牌の制式は、現在の旭日章の基となっている[5][6]

同年末には、有栖川宮幟仁親王以下10名の皇族が、初めて叙勲された。皇族以外の者に対して初めて叙勲が行われたのは翌1876年(明治9年)で、台湾出兵の功により西郷従道が勲一等に叙された。また同年には、清国との交渉に功のあったアメリカ人のル・ジャンドル(リセンドル)将軍とフランス人のボアソナードが、最初の外国人叙勲として勲二等に叙された。

1876年(明治9年)10月12日、正院に賞勲事務局(同年12月に賞勲局と改称)を設置し、参議伊藤博文を初代長官に、大給恒を副長官に任命した[7]。同年11月15日の太政官布告により、賞牌は勲章(従軍牌は従軍記章)と改称された(明治9年太政官布告第141号)。また、同年12月27日の詔書により、勲一等の上位に大勲位が置かれた。大勲位には、対応する勲章として菊花大綬章菊花章が制定された[8]1888年(明治21年)1月3日には、制度運用の円滑化を図り、諸外国の例に倣い、宝冠章瑞宝章が新設され、旭日章には旭日大綬章の上位に旭日桐花大綬章が、菊花章には菊花大綬章の上位に菊花章頸飾が置かれた(明治21年勅令第1号)。

thumb|100px|金鵄勲章(功5級) また、1890年(明治23年)には、武功抜群の軍人軍属に授与される金鵄勲章(功一級から功七級の功級)が制定された。なお、金鵄勲章は、日本国憲法の施行に伴い、1947年(昭和22年)に廃止された。さらに、1937年(昭和12年)には、学術、芸術上の功績があった者に対し授与される文化勲章が制定された。

終戦とそれに続くGHQの占領統治により、官吏制度が根本的に変えられたため、従来の叙勲内則の適用が困難となる。1946年(昭和21年)5月3日の閣議決定により、外国人に対する叙勲と文化勲章を除き、生存者叙勲は停止された。また、栄典に伴う様々な特権も廃止された。

1953年(昭和28年)9月18日の閣議決定により、生存者であって緊急に叙勲することを要するものに対し、叙勲を再開。再開されたのは、この年に多発した風水害において、救難・防災・復旧に功のあった者を顕彰するため、叙勲を含む栄典制度活用の必要に迫られたためである。

1963年(昭和38年)7月12日池田勇人内閣の閣議決定により生存者叙勲の再開が決められた[9]。これに伴い、翌1964年(昭和39年)4月21日、新しい叙勲基準が閣議決定された。同月29日、戦後第1回目の生存者叙勲が発令された。以後、毎年2回、春と秋に叙勲が発令されている。

1999年(平成11年)12月に自由民主党が栄典制度検討プロジェクトチームを立ち上げ[10]、翌2000年(平成12年)4月13日に「栄典制度の改革について」と題する報告書をまとめた。同年9月には森喜朗内閣総理大臣が「栄典制度の在り方に関する懇談会」を置き(平成12年9月26日内閣総理大臣決裁)、以後8回の議論を経て、2001年(平成13年)10月29日に「栄典制度の在り方に関する懇談会報告書」をまとめた。

第1次小泉内閣による2002年平成14年)8月7日の閣議決定に基づき、翌2003年に栄典関係政令の改正が行われ、懇談会の報告書に沿った形で、栄典制度の大幅な見直しが図られた。第1次小泉内閣第1次改造内閣による2003年(平成15年)5月20日の閣議決定で、新しい「勲章の授与基準」が決められた。叙勲の官民格差が改革の対象となったほか、時代にそぐわないという点から数字を用いる「勲○等」形式の勲等が廃止[11]され、勲章の等級が簡略化された。これまで男子のみが授与された旭日章が男女問わず授与されることになり、他方、女性版旭日章として女性のみに授与されていた宝冠章は皇族女子又は外国人女性への儀礼的な場合にのみ授与される特別な勲章となった。また、叙勲候補者の一般推薦制度も定められた。この時の改正では、瑞宝章の綬の色が白地に黄色線から青地に黄色線へ変更され、デザインも旭日章同様、桐葉を模した鈕(ちゅう=勲章とそれを吊り下げる金具の間に付属する飾り金具)が追加された。(等級によって旧勲四等以上が七三の桐葉、勲五等以下は五三の桐葉である。)

種類

[[画像:Japanese Order01.jpg|thumb|180px|大勲位菊花大綬章(副章)]]

  • 大勲位菊花章 (Supreme Orders of the Chrysanthemum) :日本における最高勲章
  • 桐花大綬章 (Grand Cordon of the Order of the Paulownia Flowewrs)
  • 旭日章 (Orders of the Rising Sun)
    • 旭日大綬章 (Grand Cordon of the Order of the Rising Sun)
    • 旭日重光章 (The Order of the Rising Sun, Gold and Silver Star)
    • 旭日中綬章 (The Order of the Rising Sun, Gold Rays with Neck Ribbon)
    • 旭日小綬章 (The Order of the Rising Sun, Gold Rays with Rosette)
    • 旭日双光章 (The Order of the Rising Sun, Gold and Silver Rays)
    • 旭日単光章 (The Order of the Rising Sun, Silver Rays)
  • 瑞宝章 (Orders of the Sacred Treasure)
    • 瑞宝大綬章 (Grand Cordon of the Order of the Sacred Treasure)
    • 瑞宝重光章 (The Order of the Sacred Treasure, Gold and Silver Star)
    • 瑞宝中綬章 (The Order of the Sacred Treasure, Gold Rays with Neck Ribbon)
    • 瑞宝小綬章 (The Order of the Sacred Treasure, Gold Rays with Rosette)
    • 瑞宝双光章 (The Order of the Sacred Treasure, Gold and Silver Rays)
    • 瑞宝単光章 (The Order of the Sacred Treasure, Silver Rays)
  • 文化勲章 (Order of Culture)
  • 宝冠章 (Orders of the Precious Crown)
    • 宝冠大綬章 (Grand Cordon of the Order of the Precious Crown)
    • 宝冠牡丹章 (The Order of the Precious Crown, Peony)
    • 宝冠白蝶章 (The Order of the Precious Crown, Butterfly)
    • 宝冠藤花章 (The Order of the Precious Crown, Wistaria)
    • 宝冠杏葉章 (The Order of the Precious Crown, Apricot)
    • 宝冠波光章 (The Order of the Precious Crown, Ripple)

その他の栄典

国が与える栄典には、勲章の他に、褒賞(褒章、褒状、賞杯)、位階がある。

褒章は、褒章条例(明治14年太政官布告第63号)に基づき、内閣の名で授与される。褒章は、授与の理由となった功績の内容により、紅綬褒章、緑綬褒章、黄綬褒章、紫綬褒章、藍綬褒章、紺綬褒章の6種がある。6種の褒章は、いずれも「褒章」の文字が刻まれたメダルに色の違う綬(リボン)が付され、綬の色により呼ばれる。勲記には「日本国天皇が授与する」旨明記され国璽が押されるのに対し、褒章に添付される「褒章の記」には内閣の官印(「内閣之印」)が押される。ただ、褒章の授与も「栄典」の一つであり、栄典の授与は天皇の国事行為の一つでもあるため、褒章の授与には天皇の裁可を求める。→詳しくは褒章の項目を参照。

内閣は、位階令(大正15年勅令第325号)に基づき、勲功ある者を位階に叙する。1964年(昭和39年)以降は、故人に限って位階に叙されている。叙位と共に授与される「位記」には御璽又は「内閣之印」が押され、内閣総理大臣が署名する。→詳しくは位階の項目を参照。

その他、内閣や各省大臣、各地方自治体は、大きな功績があった者に対して、勲章や褒賞に代えて、あるいは時機に応じて顕彰するため、各種の表彰を行っている。これらは、憲法上の「栄典」にはあたらないものの、勲章や褒賞に並ぶ栄誉にあたる。

勲章や褒章に代えた表彰としては、内閣の賞杯がある。賞杯は、銀製の(銀杯)あるいは朱塗り木製の盃(木杯)を授与するもので、功績の大きさに応じて一組台付、一組、一個の3段階がある。この盃には、勲章に代えた場合には菊花紋章、褒章に代えた場合には五七桐花紋が、それぞれ刻まれる。賞杯は、褒章と共に授与されることもある。

時機に応じた顕彰のための表彰としては、内閣総理大臣表彰の一種である国民栄誉賞がある。国民栄誉賞は、勲章や褒賞ほど厳格な授与基準・授与手続が定められていないため、その時々の人気者が受賞することも多い。→詳しくは国民栄誉賞の項目を参照。

警察庁長官警察官や功労ある市民に与える記章や、消防庁長官消防吏員並びに消防団員に与える記章、行政機関地方公共団体が与える各種の栄誉章、日本赤十字社が与える有功章など、表彰に併せてメダル型の記章を授与するものもある。→詳しくは栄章の項目を参照。

自衛隊防衛記念章の一つ

また、表彰の意味合いと各人の経歴を示すシンボルの意味を併せ持つ、防衛記念章も表彰の一種とされる。防衛記念章は、防衛大臣自衛官に対し与えるもので、授与の理由となった功績の内容や経歴に応じて34種ある。→詳しくは防衛記念章の項目を参照。

なお、勲章がOrderと英訳されるのに対し、褒章並びに記章はMedalと訳され区別されている。

関連項目

參考資料

  1. ^ 文化勲章受章者は、文化功労者の中から選ばれるのを通例とするため、文化功労者としての年金は支給される。
  2. ^ 勲章を佩用(はいよう。着用。)することができるのは授与された本人のみであるものの、授与された勲章自体は相続することができる。
  3. ^ メダイルとも。フランス語でメダル(Médaille)。
  4. ^ 賞牌従軍牌制定ノ件は、翌1874年(明治9年)の太政官布告(明治9年太政官布告第141号)により勲章従軍記章制定ノ件と改称され、さらに2003年(平成15年)5月1日には政令(平成14年政令第277号)により勲章制定ノ件と改称された。
  5. ^ 上位から順に、旭日大綬章、旭日重光章、旭日中綬章、旭日章綬章、双光旭日章、単光旭日章、青色桐葉章、白色桐葉章の8種。
  6. ^ 現在の制式は、各種勲章及び大勲位菊花章頸飾の制式及び形状を定める内閣府令(平成15年内閣府令第54号)に定められる。
  7. ^ 1878年(明治11年)3月、長官を総裁、副長官を副総裁と改称(明治11年太政官達第8号)。
  8. ^ 菊花大綬章と菊花章の制式は、翌1877年(明治10年)の太政官達(明治10年太政官達第97号)により定められた。後に菊花章は、菊花大綬章の副章とされた。
  9. ^ このとき、暫定的に設定された70歳以上という年齢要件は、その後の春秋叙勲の原則となり、現行の春秋叙勲候補者推薦要綱(平成15年5月16日内閣総理大臣決定、同20日閣議報告。)に引き継がれている。なお、危険業務従事者叙勲については、原則として55歳以上とされる。
  10. ^ これは、同月8日の自民党内閣部会において、亀井静香政務調査会長が「21世紀を迎えるに当り、栄典制度を新しい時代にふさわしいものとするため抜本的な検討を加えるべき」と指示したことを受けたもの。
  11. ^ 勲章制定の件には「勲等」の2文字は残っており、概念としてはなお存続している。詳細は勲等参照

外部連接